論文はなぜ有料?有料派と無料派のせめぎ合いと今後

2020年10月12日 | 論コラム

有料で論文を読むことに、抵抗はありますか?

研究者や学術専門家、大学生は、所属機関が契約する出版社の論文ならすべて無料で読めます。
しかし一般の個人はそうもいかず、読みたい論文が有料であることもしばしばです。

「なぜ論文は有料なの?」
「有償か無償か気にして論文を探したくない!」

そんな疑問や不満を感じる人もいるでしょう。

このコラムでは、論文について有料派と無料派それぞれの意見を見ながら、有料となっている背景にせまります。

 

論文が人の目に触れるまで


 

まずは、論文が書かれてから出版されるまでの流れを見てみましょう。

【論文投稿から出版までの流れ】

論文の執筆・投稿(研究者)
→受理・書誌的事項の確認など(出版社)
査読 (専門家・研究者-出版社主導)
→印刷・出版(出版社)

研究者が成果をまとめた論文を世に送りだすには、執筆した論文を学術雑誌(学術ジャーナル)に投稿する方法が一般的。
投稿者に論文掲載料(APC)を課す学術雑誌もあり、書いた側なのに有料なんてケースも少なくありません。

投稿された論文は、編集者側によって基本情報(書誌的事項)をチェックされ、その後、学術雑誌に掲載すべきかどうかの審査(査読)に進みます。
論文の質が学術雑誌の信頼性を決定づけるので、査読はとても重要なステップです。

査読のない学術雑誌もありますが、掲載されても評価は低くなりがち。
査読つき学術雑誌に自分の論文が掲載されることは、研究者の目標のひとつです。

査読では、その分野の専門家や研究者たちが実際に論文を読み、その品質を独自の基準で評価します。
通過した論文だけが、その学術雑誌に掲載されるのです。

このように、論文の執筆から公開までにはたくさんの時間や人手がかかります。
もちろん、論文を書くための研究にも同じようにコストがかかっていることを忘れてはいけません。

 

無料派VS有料派それぞれの主張


 

必要な論文はたとえ有料でも読む人、
お金がかかるなら論文を読むのはあきらめる人、
立場や事情が違えば、考えも異なって当然です。

無料派と有料派、それぞれの主張を紹介します。

 

論文無料派の主張


 

✔ 費用が高すぎて読めない

一誌ごとに買うと高いので、複数の学術雑誌をまとめてパッケージ買いすることになります。
しかしそれでも、エルゼビアやネイチャーといった人気誌ともなると年間数千万円の購読料がかかることも。
信頼性の高い学術雑誌には多くの論文が集まるので、どうしても査読や出版のコストがかさんでいってしまうのです。
たまらず購読を打ち切る大学違法にシェアする研究者が続出し、問題になっています。

✔ ビジネス化によって論文の質が低下する

利益を追求するあまり本質を見失った例は、挙げればキリがありません。
上記の購読料高騰だけでなく、適当な査読で投稿料をせしめるハゲタカジャーナルの出現など、論文の世界でもそれは始まっています。

✔ 論文の著者の利益になっていない

論文に支払われる料金は、それらを精査し、まとめ、世に送り出す出版社の収益になります。
著者としても、有名雑誌に取り上げられて評価されることによる名声がモチベーションであり、論文で直接儲けることはありません。
著者の利益になっていないなら、いっそ無料公開してほしいと考える人もいます。

✔ 有償のせいで論文掲載サイトの使い方が複雑になる

有料だとどうしても、個人情報の登録や支払い手続きなどが必要になります。
利便性の観点から、PDFでネット上に公開して簡単に利用したいという声もあります。

✔ 公共の利益のために敷居を下げるべき

研究者は論文を書くだけでなく、読むことも日常。
購読料に予算を取られるあまり研究費が圧迫されれば、思うような研究ができなくなります。
結果として、新たに投稿される論文の質は低下し、科学の発展を妨げるおそれがあるのです。

そして、有料のせいで学生や一般人が論文に触れる機会を奪われている現状にも、目を向ける必要があります。
研究者の努力が公共の利益に還元されるよう、読者からお金を取る以外の収益方法を確立すべきかもしれません。

 

論文有料派の主張


 

✔ そもそも有料が基本原則

小説やマンガ、新聞など他の出版物と同様に考えれば、有料なのは当然です。
情報を収集・編集し、発表する場を整える組織があるからこそ、読者は有益な情報にアクセスできます。
最近では、オンラインでアクセスできるよう学術雑誌の電子化に取り組む出版社も増えており、そこにも莫大な経費がかかります。
本当に価値のある情報流通に貢献している出版社には、それに見合う対価を支払うべきでしょう。

✔ 有料だからこそ論文の質が維持できる

無料派の主張と矛盾しますが、有料であることが論文の質を守るという考え方もあります。
すでに解説したとおり、膨大な量の論文から価値あるものを見極めて出版するには、たいへんな手間と費用がかかります。
有料でなければ、そのしわ寄せは出版社か執筆者か、いずれにしても論文の質を左右する立場の人へ集まってしまうでしょう。
いたずらなコストカットも負担を生み、論文の質を損なうかもしれないのです。

✔ 知的財産、著作物の問題

論文は著作物であり、そこには著作権が発生します。
他の著作物と同様に、利用目的によっては、論文の場合も著作権元にお金を払うのは当然のことです。

 

執筆者、出版社、そして読者。
立場によって意見も異なりますが、それぞれに共感できるものがあるのではないでしょうか。

 

論文とお金の今とこれから


 

論文が有料であることへの理解を深めるために、次は論文とお金に関する、現在の問題と今後を考えてみます。

 

論文が有料となっている現在


 
ペイウォール(購読料の壁)問題

重要な論文は権威ある学術雑誌に集まり、それらの多くは購読を有料化しています。
そのため利用できるユーザーは限られ、そこにアクセスできる研究機関などに所属していなければ読むことすらできません。
これが購読料の壁、ペイウォールです。
この壁は情報の流通を妨害し、知識の格差まで生じさせると議論されています。

ただ、信頼性の高い人気雑誌には、掲載希望の論文がどんどん集まるので、それらを裁くコストの増加も避けられません。
出版社が、扱う情報の質をキープしながら、オンライン化など流通の利便性向上にも取り組んでいるのも事実。
あたかも不当な値上げを続けているような見方は、公平性を欠いているでしょう。

シリアルズ・クライシス問題

先ほどから言及している、学術雑誌の購読コスト高騰にまつわる問題のことです。
1970年代から学術雑誌の価格が上がり、大学や図書館、研究機関でさえ購読できなくなる事態に発展。
購読数が減った結果、さらに価格上昇が止まらないという負のスパイラルが起こり、問題は深刻化しています。

1990年代に電子ジャーナルによる提供サービスが開始され、論文の利用が増大しましたが、学術雑誌の価格は依然として高騰。
大学などでは関係者で協力し合うコンソーシアムを形成して、出版社が刊行する全ての電子ジャーナルを利用できるようにするビッグディール契約などの対策を講じてきましたが、解決には至っていません。

研究機関でさえ論文を入手することが困難になっていることから、近年では研究レベルの低下も問題視され始めています。

オープンアクセスへの取り組み

オープンアクセスとは、ネット経由で誰でも無料で学術情報にアクセスできる状態。
ペイウォールやシリアルズ・クライシス問題を解決する可能性として期待されています。

2007年、まずはアメリカがいち早く動き出し、出版社の反発に会いながらもその取り組みは拡大。
あのビル・ゲイツも参戦し、学術論文を公開する英文サイト「ゲイツオープンリサーチ」を開設しています。
さらにヨーロッパでも、2018年に11の国立助成機関が結集して団体を立ち上げ、オープンアクセス本格化を進めるための「プランS」を始動させました。
オープンアクセスのデメリットに対する批判も含め、世界中で熱い議論が展開されています。

 

今後、論文は有料ではなくなるのか


 

オープンアクセスの拡大は今後も進み、無料で読める論文が増えていくと予想されます。
しかし、世の中のすべての論文を無料化することは難しく、「論文は無料が当たり前」というのは現実的ではありません。
論文の流通システムが見直されることで費用が下がる可能性はありますが、有料であることは変わらないでしょう。

 

最後に


 

科学の発展、人類の利益を考えると、論文の入手に負担がかかる状況は望ましくありません。
とはいえ、論文の生産や流通に安くないコストが発生していることも事実です。
その費用は妥当なのか、誰が負担するべきなのか、すぐに結論を導き出すことは難しいでしょう。

一方で、有料で論文を読む側からすると……
あまりに高い費用がかかるのは困りものですが、「知識を得るための課金・自分への投資」として考えれば、それはとても有意義なことです。
さらに、そのお金が論文の質を守り、新たな研究に役立っているとなれば、有料でも納得できるのではないでしょうか。

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