みなさんは医学論文と聞いてどんなイメージを持ちますか?
「素人には難しそう」
「専門用語がわからない」
「英語が苦手だから無理」など……
とっつきにくいイメージを持つ人も多いでしょう。
でも読んでみると、医療や健康の最新情報がたくさん詰まっていて、意外に面白いものなのです。
そんな医学論文、ちょっとしたコツを掴めば専門家でなくても簡単に読めてしまいます。
このコラムでは、医学論文を楽に読むための省エネな読み方を紹介します。
医学論文は要約から読むべし
論文を読む時は、まず要約をしっかり読みましょう。
これは医学論文に限らず、日本語でも英語でもすべての論文に共通して言えることです。
要約はアブストラクト(Abstract)、略してアブストと言われることが多く、サマリー(Summary)と表記されることもあります。
たいてい論文の冒頭に配置されており、最初に目にすることが多いです。
ここをなんとなく読み流すのではなく、しっかり噛み砕いてから読み進めることをおすすめします。
要約には論文における研究の
- 背景
- 目的
- 結果
がきれいにまとめられています。
要約で概要を把握してから論文を読み進めれば、内容がすんなり頭に入ってくるのを実感できるはず。
短い時間で目を通せるので、内容を理解できるまで要約を繰り返し読むことは、決して時間のムダにはなりません。
医学論文の構成を知ろう
論文の構成は掲載される雑誌によって多少異なりますが、基本的には以下のようになっています。
太字で示した部分が「本文」と言われる部分です。
タイトル(Title) | タイトルを見れば読むべき論文かどうか、ある程度判断できる。 |
著者(Authors) |
筆頭著者(ファーストオーサー)は論文に一番貢献した人。 最後の著者(ラストオーサー)は監督者であることが多い。 |
要約(Abstract / Summary) | 研究の背景、目的、結果がコンパクトにまとめられている。 |
序文(Introduction) | 背景が詳しく述べられ、研究課題も記載される。 |
方法(Method) | 実験方法や対象、用いた試料などが詳しく記載されている。 |
結果(Result) | 研究から得られた結果やデータが示される。 |
考察(Discussion) | 結果から明らかになったことやわかったことが述べられる。 |
結語(Conclusions) | まとめとして、論文の主張や研究の意義が述べられる。 |
引用文献(references) | 論文を書くための研究で参考にした文献が記載される。 |
何がどこに書かれているか分かれば、自分が知りたいことを探す場合も予測がつきやすくなります。
▶研究目的、課題を知りたいなら→要約、序文を読む
▶結果を知りたいなら→結果、考察、結語を読む
といった使い分けをすると良いでしょう。
論文の構成が理解できたところで、次は“省エネな読み方”のコツをご紹介していきます。
省エネな読み方のコツは『PICO/PECO』
医学論文の効率的な読み方としてPICOまたはPECOと呼ばれるものがあります。
(PICOでもPECOでも意味に大差はないので、ここからはPICOに統一します)
これらは、以下の情報の頭文字をとった表現です。
- P:Patient(対象患者)
- I/E:Intervention、Exposure(介入・暴露)
- C:Comparison(比較対象)
- O:Outcome(結果)
つまり、
ということ。
先にPICOだけを拾い読みして論文の全体像を大まかに掴んでおくことは、例えるならあらすじを読んでから小説を読むイメージです。
そのため、要約だけを読むよりも具体的に医学論文の内容を理解できるでしょう。
要約読みは入門編として、慣れてきたらPICO読みにも挑戦してみてください。
なお、PICOは要約内にコンパクトに書かれていることも多いですが、P(対象患者)とC(比較対象)は「方法」を読んだ方がより分かりやすいでしょう。
図表やグラフは論文を読む助けになる
医学論文において、図表やグラフでまとめられた実験データは生の研究結果です。
難しいことは考えず、「比較対象と比べて、どんな結果が出たか」に注目してみましょう。
「あれ、さっきのPICOでも似たようなこと言ってなかった?」
今そう思った人は、センスがあります!
専門用語や略語が多くて敬遠しがちですが、グラフや図表には実験結果が視覚的にまとめられています。
これは論文の結論を導き出した根拠となるので、眺めるだけでもたくさんの情報が得られるのです。
例えば、横軸に時間をとったグラフでは、実験群ごとの時間経過に応じた傾向(トレンド)を掴むだけでもOK。
慣れればタイトルとグラフ、図表を見るだけで、実験の目的と得られた結果をざっくり把握でき、理解の時短にも役立ちます。
とは言え、論文の内容をしっかり理解するためには、やはりテキストを読むことが大切。
図表は論文を読む助けとして使いこなしてください。
医学論文を読むときの注意点
まず、ここまでのおさらいも含めて、医学論文の読み方のコツを簡単にまとめます。
- まずはタイトルから読むべき論文なのか判断する
- 次に要約を読んで論文の概要を把握する
- 慣れたらPICO読みで論文の結論を予測しつつ読み進める
- 詳しく知りたい部分や不足情報をピンポイントで読み込む
この4つのポイントを押さえれば、論文をすべて読まなくても短時間で内容がわかるはず。
ただし、要約はあくまで論文の概要であり、実験方法や考察が省かれていることも多いです。
要約読みだけですべてを理解した気になってはいけないという点は、頭においておきましょう。
そしてもうひとつ、論文を読むときは、それがいつ発表されたものか発行年もチェックしてください。
医学研究は日進月歩。
研究が進むことで日々新しい事実が明らかになり、10年前の常識が今では非常識になっている、なんてこともあります。
誤解や勘違いを避けるために、どの時点で書かれた論文か確認してから読むようにしましょう。
医学論文でヘルスリテラシーを磨こう
論文は、研究者や専門家が研究成果を学会などで発表するために書いた専門家向けの文章です。
だから専門家以外の人がそこに使われている言葉をなかなか理解できないのも当たり前。
少しずつ慣れていきましょう。
突然ですがヘルスリテラシー(医療リテラシー)という言葉を知っていますか?
健康に関する情報を入手・理解し、意思決定に活用して適切な行動につなげる能力を意味します。
このヘルスリテラシー、聖路加国際大学が行った調査によれば、日本は諸外国に比べてあまり高くない傾向にあります。
医師の説明が難しく感じる原因は、日本での健康教育の少なさにあるほか、医師本人が、患者に医学用語を多用している自覚が薄いことも挙げられます。
だからこそ、医学論文を読む時に分からない言葉に出会ったら、ネットで調べながら少しずつヘルスリテラシーの向上を目指しましょう。
医学論文が読めるようになっていく感覚は楽しいものですし、くらしの役に立つこともあるかもしれません。
英語の壁はどんどん下がっている
海外の論文を読む場合、そもそも英語のハードルを前にあきらめてしまう人も多いでしょう。
でも最近は、AIによって精度がぐっとアップした翻訳ツールを使えば、英語が苦手な人でも海外論文を理解できるようになってきています。
たとえばGoogle翻訳なら、みなさんも使ったことがあるでしょう。
昔のような不自然な翻訳が少なくなって、ほとんどの英文の意味をつかめます。
医学の専門用語がたくさん使われた文章ならDeepL(ディープエル)がおすすめ。
カルテの言語でもあるドイツの会社が開発した翻訳システムの精度はGoogle翻訳以上とも言われています。
DeepLなら、Google翻訳では拾えなかった専門用語もしっかり訳してくれるかもしれません。
また、日本医学会が一般公開している医学用語辞典は、ユーザー登録すれば誰でも利用できます。
これらを駆使すれば、英語が苦手な人でもきっと、医学論文を読めるでしょう。
主な医学雑誌について
最後に、論文のインパクトファクター(影響度や論文の引用頻度)によって格付けされた世界の5大医学雑誌(ビッグファイブ)を紹介しておきます。
略称:N Engl J Med または NEJM
発行元:マサチューセッツ内科外科学会
略称:Lancet
発行元:エルゼビア社
略称:JAMA
発行元:米国医師会
略称:BMJ
発行元:BMJグループ
略称:Ann Intern Med
発行元:米国内科学会
その他の有名な医学系雑誌
【まとめ】医学論文の読み方
医学論文を読むことへの不安は晴れたでしょうか。
慣れるまでは少し難しく感じるかもしれませんが、次第に楽しみながら読めるようになります。
みなさんも、今回紹介した省エネな読み方をぜひ試してみてください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。