HPLC(液クロ)とは?分析メソッド開発経験者が原理を解説

2021年05月11日 | 論コラム

分析業界でよく聞くHPLC(液クロ)
どんなものか正確に理解するのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

今回は、製薬会社で多くの分析メソッドを開発してきた筆者が、分析未経験者に向けて「5分で分かるHPLC概論」をお届けします。
HPLCをおおまかに理解するための参考にしてみてください!

 

HPLC(液クロ)とは


 

HPLCとは、高速液体クロマトグラフィーを意味する“High Performance Liquid Chromatography”の略称。
試料の中に「何がどのくらいの量で含まれるか」を知るために使われる、ごく一般的な分析方法です。

液クロのイラスト

分析できる成分は低分子(薬の有効成分など)から高分子(タンパクなど)、そしてイオン性、非イオン性物質まで広くカバーしています。

溶媒*に溶かすことができるものであれば、その成分を特定し(定性分析)、さらに量も知る(定量分析)ことができるのです。

溶媒とは、物質を溶かす媒体のことです。食塩水を例にとると、食塩を溶質、水を溶媒と言います。理科の授業で習いましたね!

 

HPLC(液クロ)の原理


 

ではどうやってHPLCで定性分析、定量分析を行っているのか、その原理に触れていきましょう。

HPLCではいろいろな成分が混ざった液体から1つ1つの成分を分離し、その量を計ります。
この分離がHPLC分析では最も重要であり、移動相(流しておく溶媒)と固定相(カラムの充填剤)によって調整されます。

分離したあとに検出器を通過させることで、それぞれの物質を見える状態にします。

検出器を通過するタイミング、すなわちピークが検出されるまでの時間(リテンションタイム=Rt)でモノを特定し、検出の強度、すなわちピークの大きさ(エリア=Area)から含量を算出します。

HPLCの基本構成について、以下に図と表でカンタンにまとめました。
HPLCの構成の図解
【基本的な構成】

移動相 HPLC本体に常に流しておく液体。Mobile phase、溶離液とも。
系内に気泡が入るのを防ぐため、脱気してから使用します。
ポンプ 移動相を流す送液部。
2本のプランジャーで交互にピストン運動を行うことで、測定に悪影響となるポンプの圧力変動(脈動)を抑えながら常に一定流量の移動相を流します。
インジェクター 流れている移動相に分析したいサンプル(試料)を注入する部分。
シリンジ(注射器)で一定かつ速やかにサンプルを注入します。
最近はオートインジェクター(オートサンプラー)が主流ですが、手動のものもあります。
カラム・ヒーター カラムは固定相とも言われる、試料の分離を行う部分。
ステンレス製の管にシリカゲルやポリマーゲルなどの細かい粒子を詰めたものが主流です。
イオン分析を行う場合など、PEEK樹脂のカラムを使うこともあります。
温度変化により分析に影響が出るので、カラムを一定温度に保つためにヒーターが使われます。
検出器 カラムで分離された試料を測定する部分で、光学的検出と電気的検出に大きく別れますが、ここではより一般的な前者について説明します。
試料に含まれる化学物質の多くは400nm以下のUV(紫外線)波長を吸収するため、UV検出器が最も一般的に利用されています。
UV吸収のない物質の分析には 光蒸発散乱検出器(ELSD)を用います。
他にも試料の性質や分析目的によってフォトダイオードアレイ検出器(PDA)、示差屈折検出器(RI)、蛍光検出器(FL)などが利用されます。

 

HPLC(液クロ)の使い方


 
HPLCには、目的に応じた様々な種類(分離モード)が存在します。
分析でよく用いられるグラジェントLC-MSMSとあわせて、ひととおり簡単に紹介しておきます。

種類 特徴
順相クロマトグラフィー 固定相にシリカゲル、移動相に有機溶媒を用いて脂溶性成分(極性*の低いモノ)の分離を行う分析モード。
極性の高いカラムに極性の低い溶媒を流すことで、極性の低い物質を先に溶出させる分析法。
逆相クロマトグラフィー 固定相にC18シリカ(ODS)、移動相に水系溶媒を使用する最も一般的な分析モード。
極性の低いカラムに極性の高い溶媒を流して極性の高い物質を先に溶出させる分析法。
イオン交換クロマトグラフィー 固定相にイオン交換樹脂、移動相に緩衝液を用いることでイオン性成分の分析を行うモード。
ODSに保持されないモノや、水に溶けてイオンになる物質(アミノ酸など)、無機イオンの分析に用いられます。
固定相は分析したい対象によって、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂を使い分けます。
サイズ排除クロマトグラフィー
(SEC/GPC)
ゲルろ過クロマトグラフィー(GFP)とも呼ばれ、分離は溶液中のサンプルサイズに基づいて行われます(分子量ではない)。
この分析モードは物質の物理的性質によって分離を行うため、化学的、電気的性質を利用する他のモードとは原理が異なります。
ここで用いられる固定層はいわゆる「ふるい」のイメージ。
高分子化合物を大きさによって分離し、化合物の分子量、分子量分布を知ります。
分析対象の分子状態を見極め、精製・分離に役立てられています。

極性とは、一言でいえば電気的な偏りのことで、溶解(モノの溶けやすさ)に影響する指標となります。
極性が高いものは水のような高極性溶媒に溶けやすく、極性が低いものは水には溶けにくいですが有機溶媒などの低極性溶媒に溶けやすいです。

グラジェントによる溶出法
グラジェント分析は、例えるなら色彩のグラデーションのようなもの。
2種類以上の移動相を使用し、移動相Aから移動相Bに割合を徐々に変化させながら分離させる手法です。
移動相A(高極性)→移動相B(低極性)というように溶媒を切り替えることで、1つの移動相で分離できないものや、分離に時間がかかるものも効率よく分析できます。
逆相やイオン交換モードでよく使われます。

LC-MSMSについて
血液や尿などの生体試料の分析には、HPLCの後にMS/MS(質量分析計)を組み合わせたLC-MS/MSを用います。
HPLCで言うところの検出器がMS部になったもので、このMS部は2段になっています。
HPLCで分離した試料を、1段目のMSでイオン化し不活性ガス(アルゴン)に衝突させてイオンを解離させ、2段目のMSで乖離したイオンを分析します。
試料成分のイオンを2段階のMSで選別するため選択性が高く、HPLCでは分析できないような微量サンプルの定量が可能です。

 

さいごに


 

HPLCがどういった分析に使えるのかお分かりいただけたでしょうか。

さいごに、論コレで入手できる参考文献を紹介しておしまいにします。

今回の解説が、HPLCに興味のある多くの人の役に立てば幸いです。

 

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