癌の標準治療、民間療法、最新治療…各方法のメリット・デメリット

2020年12月25日 | 論コラム

癌(がん)には長らく、“不治の病”というイメージが定着していました。
今でも怖ろしい病気ですが、一方でたゆまぬ研究により、優れた治療法が日々開発されています。

そんな癌の治療法をいくつかの選択肢から決めるときは、がんの種類や進行度(ステージ)はもちろん、生活環境や将来のことも含めた総合的判断が重要。
そのため、事前に医師の説明を受け、治療についてよく理解したうえでの合意インフォームド・コンセント)が推奨されています。

今回のコラムでは、そんな理解を助ける基礎知識として、各治療法の特徴やメリット、デメリットを紹介していきます。

 

癌の標準治療 (三大治療) について


 

がんにおける 「標準治療」とは、以下の3つを指します。

  • 外科手術
  • 薬物療法
  • 放射線治療

エビデンス(科学的根拠) も示されているこれらは三大治療とも呼ばれ、今における最善の治療法と言えます。

「標準」という言葉に「普通・平均的」というイメージを抱くせいか、最先端の治療法を選ぶ人も多いですが、「目とするべき高い水を満たす、信頼できる治療法」というのが正しい認識でしょう。

 

外科手術(外科治療)


 

いわゆる“オペ”で、がんを直接的に取り除く治療法です。
臓器を一部取り除くことで正常な機能が失われる場合は、機能回復のための再建手術(バイパスや移植など)を行います。

メリット
  • がんを直接取り除くため、早期発見のがんでは治る可能性が高い
  • デメリット
  • 体への負担が大きいため免疫力が低下し、再発のリスクが上がる恐れがある(内視鏡などを使っての負担低減は可能)
  • がんと一緒に周辺組織を取り除くため、臓器の機能低下や後遺症がでる可能性がある
  • 手術によって転移のリスクが上がる
  • がんの種類や進行度によって適応できないものもある
  •  

    薬物療法(化学療法、抗がん剤治療)


     

    からだ全体に抗がん剤(薬)の効果を行き渡らせる薬物療法は、手術では取りきれないがん細胞、血液やリンパに乗って転移してしまったがんなど、直接ねらい撃ちできない場合に効果を発揮します。

    薬物療法には、抗がん剤を使う化学療法のほか、分子標的療法内分泌療法(ホルモン療法)などがあり、場合によっては通院しながらの治療も可能です。

    【化学療法】
    一部を除き、多くの抗がん剤は、正常な細胞とがん細胞の区別をすることなく影響を与える

    【分子標的療法】
    「がん細胞が増える仕組み」や「免疫に関わるタンパク」をターゲットにした治療法

    【内分泌療法(ホルモン療法)】
    特定のホルモンが影響する乳がん、子宮がん、前立腺がんなどの場合、ホルモン分泌を抑えて癌の増殖を抑える

    メリット
    (化)全身に作用するので、転移があるがんにも適する
    (化)血液のがんなど、手術ができない場合にも有効な手段となる
    (分)がん細胞を狙った治療なので、正常な細胞への影響や副作用が少ない
    (分)その薬剤が有効かどうかを投与前にあるていど予測できる
    (ホ)正常な細胞に作用しないため、副作用が比較的少ない
    デメリット
    (化)正常な細胞にも作用するため、吐き気や食欲低下、倦怠感や脱毛などの副作用がある
    (化)継続使用すると、その薬への耐性ができてしまう
    (分)薬のタイプごとに特徴的な副作用がある
    (ホ)性ホルモンの働きを止めると更年期のような症状が出たり、骨粗しょう症のリスクが上がったりする

    ※(化)=化学療法、(分)=分子標的療法、(ホ)=内分泌療法

     

    放射線治療


     

    X線、電子線、ガンマ線、粒子線などの放射線を当て、DNAにダメージを与えることでがん細胞を抑えこむ治療法です。
    単独で行われることもありますが、手術や薬物療法と併用されることもあります (集学的治療といいます)。

    標準治療の放射線治療は、治癒を目的とした根治治療と、症状軽減のための緩和治療に大きく分けられます。
    体の外から放射線を当てる「外部照射」が一般的ですが、放射線を発生する線源を体内に入れる密封小線源治療などの 「内部照射」といった方法もあります。

    メリット
  • 体を傷つけず、臓器の機能も保てるので、からだ全体や治療後のQOL(生活の質)への影響を抑えられる
  • 通院しながらの治療が可能で、日常生活を続けられる
  • デメリット
  • 皮膚や毛根など放射線を照射した部位への障害、吐き気、全身倦怠感などの副作用が起こりうる
  • 一度に多くの線量の放射線を照射できないので、通院日数が長くなる
  • 照射できる放射線量の総量が決まっていて、同じ場所に再発した場合は再治療できない
  •  

    癌の民間療法(代替療法)について


     

    がん患者の中には、より効果的な治療の追求や副作用への怖れなどの理由から、病院外での民間療法を望む人も多くいます。
    標準治療を補うための補完療法や、完全に標準治療の代わりとする代替療法など、目的はさまざまです。(民間療法そのものを代替療法と表現することもあります)

    また、その種類も多種多様で、挙げればキリがありません。以下はほんの一部です。

    • 食事療法(栄養療法)
    • 運動療法
    • 自然療法
    • 温熱療法(ハイパーサーミア)
    • 温泉療法
    • 電気治療(電場療法)
    • 水素吸入療法
    • 周波数療法
    • 高濃度ビタミンC療法
    • オゾン療法(血液クレンジング)
    • 酵素療法
    • 音楽療法
    • 催眠療法
    • ヨガ療法
    • 瞑想療法  etc.

    これほどまでに多くの治療法が存在するのは、多くの患者が “藁をもすがる思い” でガンを克服しようとしているからでしょう。

    ただ、このような民間療法は効果のエビデンスや安全性が確認されたものではありません。
    そのため、効果がないだけでなく、副作用が出たり、標準治療の邪魔になったりといったリスクも否定できません。

    一概に全てが悪いというわけでもありませんが、民間療法を試すときは、必ず医師に相談するようにしましょう。

    メリット
  • 一般的な治療を受けながら補助的に利用でき、プラシーボ効果も期待できる
  • がんの辛さを和らげるという点で、一定の効果があるものもある
  • デメリット
  • 科学的根拠に基づく効果が認められておらず、安全性も確認されていない
  • 保険適用外のものが多く経済的負担が大きい
  • 健康食品や民間療法の中には一般的な治療の効果を打ち消すものがある
  •  

    癌の最新治療について


     

    最後は、いま注目を集めている以下3種類の最先端の治療法を紹介します。
    これらも十分な安全性と効果が認められれば、いずれは標準治療として、多くの患者さんの新たな選択肢となる日がくるかもしれません。

    • 重粒子線治療
    • 遺伝子治療
    • 免疫療法(光免疫療法)

     

    重粒子線治療


     

    放射線にはX線、ガンマ線などの「光子線(電磁波)」と、陽子線、重粒子線などの「粒子線」があります。
    つまり、重粒子線治療というのは放射線治療のひとつです。

    従来の治療で使われるX線は、体内を進むにつれて効果が次第に弱まっていく性質があります。
    一方、粒子線は一定の深さまですばやく到達するので、浅いところでエネルギーが発生することによる副作用を軽減できるのです。

    これにより粒子線のエネルギーがピークに達する位置を計算し、がんを狙い撃ちすることが可能。
    現在、重粒子線治療には炭素イオンの粒子が用いられるのが一般的です。

    メリット
  • がんを狙い撃ちでき、従来の放射線治療より副作用を抑えられる
  • 正常な器官への影響を抑えられる
  • 治療期間が短く、場合によっては通院治療も可能
  • デメリット
  • 粒子線を発生させるには大がかりな加速器が必要で、施設が限られる
  • 治療対象のがんが限定される
  • 保険適用外で治療費の負担が重い(300万円ほど)
  •  

    遺伝子治療


     

    遺伝子治療とは一言で言えば、遺伝子を細胞の中に入れてがんを抑え込む治療法です。

    がんは遺伝子の異常が原因で起こる病気ですが、この異常とは、
    ・働くべき遺伝子が働かない状態
    または
    ・働かないでほしい遺伝子が働いてしまっている状態
    を指します。
    このような遺伝子が正しく働く状態にするというのが、遺伝子治療の考え方です。

    薬物療法では治療に有効な「物質」を直接体内に取り入れますが、遺伝子治療ではそのような物質を作る命令・設計図を仕込んで、上流からの治療を行ないます。

    メリット
  • 正常細胞に影響を与えない
  • 臓器などを切り取らないので、体へのダメージが少ない
  • 麻酔がいらず、体力のない患者も治療できる
  • 通院治療が可能
  • デメリット
  • 標準治療に比べ、治療実績がまだ少ない
  • 保険適用外で治療費の負担が重い(1クール100~300万円)
  •  

    免疫療法/光免疫療法


     

    免疫療法は、3つの標準治療に次ぐ第4の治療法として、近年注目を集めています。
    もともと体に備わっている免疫力を高めてがんを攻撃する治療法で、サイトカイン療法免疫チェックポイント阻害の2種類に大別されます。

    【サイトカイン療法】
    がん細胞を攻撃する免疫系を活発にする治療法で、例えるならアクセルを踏むイメージ。
    代表例:免疫細胞の1つである樹状細胞の免疫システムを利用した「樹状細胞ワクチン療法」など

    【免疫チェックポイント阻害】
    がん細胞が免疫系を邪魔する仕組みを無効化し、本来の機能を発揮させる治療法。例えるならブレーキをはずすイメージ。
    代表例:ノーベル賞で話題になった「オプジーボ」など

    この他、がんワクチンなどの研究も進んでいますが、いま特に話題になっているのは、免疫療法のひとつで第5の治療法としての期待も集める光免疫療法でしょう。
    今年9月末には、この治療法に使える楽天メディカルの医薬品「アキャルックス」が世界で初めて日本で承認され、ヤフーニュースにも載りました

    詳しくはいずれ別のコラムで説明しますが、光免疫療法は、特殊な化学物質をがん細胞に集め、そこに光を当てて化学反応を起こしてがん細胞だけを壊死させる治療法。
    頭や首などにできたがんに対する新たな治療法として期待されています。

    メリット
  • 身体が本来持つ免疫力によって、がん細胞を攻撃するので副作用が少ない
  • 治療効果が長期間継続する
  • 標準治療と併用できる
  • デメリット
  • 保険適用されているものはまだ一部で、自由診療だと治療費の負担が重い
  • 予測がつかない副作用が生じる場合がある
  • 即効性がない場合が多い
  • 中には効果が出ない患者さんもいる
  •  

    さいごに


     
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